2012年4月3日火曜日

ミラーセラピー(鏡治療)について / 府中病院


 朝日放送にて紹介されました H22.3
 「夢21」2月号に掲載されました H22.12

    

 姿勢や動きをチェックするために、医療現場のみならず様々な場面で鏡が利用されていると思いますが、ここで扱う"ミラーセラピー"は、鏡像を少し違うかたちで利用します。例えば、右手を鏡に映して、それを左手であるかのように錯覚しようというものです。

 元々は、腕を切断した人が、無いはずの腕を痛がること(幻肢痛)への対応として報告されました(ラマチャンドラン博士)。その後、脳卒中で手が動きにくい人や痛みが強い人などへの応用が研究されています。

 脳卒中の場合、マヒした手を鏡の裏に隠し、良い方の手の鏡像を、マヒした方の手が上手く動いているかのように、"錯覚"する(脳に錯覚させる)ように仕向けることで、脳を刺激しようというものです。錯覚していると自覚できる人もい� �ば、錯覚できないと訴える人もいます。また、本当に脳がだまされてくれているのか、頭(脳)の中でどのような作用を及ぼしているのか、詳細は解明できていません。しかし、少なくとも、動かないはずの手のよりリアルな運動のイメージを作り出せるのではないかと考えています。

 足への応用や痛みの治療も研究されておりますが、当院では、主に脳卒中を発症され、回復期リハビリテーション病棟に入院されている患者様の手の治療への適用を考えています。ただし、基本的なリハビリテーションの必要性や重要性に変わりはありませんので、ミラーセラピーだけを実施しているわけではなく、状態に応じた対応をしています。


どのように損失の重量自然

基本的な方法(手の鏡治療)


  1. 準備:楽な姿勢で座れる状態で、身体の正面中央付近に適切な大きさのを設置します。当院では廃品ダンボール箱を"ミラーボックス"として利用しています。
  2. 悪い方の手(治療部位)を鏡の裏側に置き、良い方の手が鏡に映り出されるようにします。良い方の手の位置を調整して、その鏡像がちょうど悪い方の手の位置に重なるようにします。
  3. 良い方の手で色々な動きをして、その鏡像(動き)を見ることに集中します。
  4. 治療時間:定められていませんが、集中できる時間や疲労を考慮すると、連続して行えるのは、15分~30分程度と考えられます。

ミラーセラピーQ&A

Q.1 どんな鏡を使うの?
Q.2 "ミラーボックス"って何?
Q.3 見ているだけでいいの?
Q.4 どんな動き(運動)をするの?
Q.5 本当に効くの?
Q.6 どんな人に効くの?
Q.7 副作用はあるの?


Q.1 どんな鏡を使うの?

A.歪みのない普通の鏡です。
  手の治療の場合、身体正面で設置ができて、手が映る必要があります。
  軽量で割れにくいものが良いかもしれません。

  1. アクリル板ミラー仕様 (a)
    薄くて軽量。割れ難い。
    *2,000円程度

  2. 風呂用鏡 (b)
    やや重く転倒注意。飛散防止加工。
    *1,000円前後

  3. スタンド付鏡 (c)
    設置容易。割れると危険。
    *1,200円程度

  4. 風呂用樹脂製ミラー
    とほぼ同じ。*2,500円程度
    *ホームセンターなどで購入可能
    (少なくともb,c,4はホームセンターで購入)

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Q.2 "ミラーボックス"って何?


どのようにポートの感染症を治すん。
A.ミラーセラピーに使用する"箱"として初期に考案されたものです。
  多くの場合、廃品ダンボールを使っての手作りです。
  鏡の設置がしやすく、鏡像への集中にもつながりやすいと思われます。
  最近では、ミラーボックスなしでの方法も実施されています。
  大きさは決まっていませんが、身体正面で両手を入れて運動できる必要があります。
  また、箱の上面中央付近に鏡を立てる開口部が必要です。

 <当院で作成したミラーボックス>
  これまで3種類の廃品ダンボールを使用してきました。大きさは少しずつ違います。
  その時に手に入るもので、適当な大きさのものを利用しています。
  下の写真F,Gはその一例です。

  • 横幅①510mm × 縦幅(奥行き)②370mm × 高さ③220mm
  • 前面の手を入れる開口部:高さ約130mm 幅約170mm
  • 手を入れる開口部の間隔:約100mm(左右近すぎると窮屈になります。)
  • 上面の鏡を立てる開口部:幅約100mm(広いと鏡に角度がつきすぎます。)
  • 側面と後面には鏡の裏で患側手を操作する開閉式の開口部を設けています。
  • 側面と後面の開口部の大きさは適当です。(明るさ調整にも利用しています。)

 <ミラーボックスを使用しない方法>
  鏡像に集中できるのであれば、"箱"は必ずしも必要ないかもしれません。
  写真Hは、姿勢矯正鏡を利用した場合を想定しています。
  写真I,Jは、様々な鏡を利用した場合を想定しています。

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Q.3 見ているだけでいいの?


うっ血性心不全の兆候がある
A.基本的にはその通りです。鏡像が刺激となります。
  鏡の裏で自分あるいは他者によって操作を加えることには賛否があるようです。
  当院では、可能であれば作業療法士や理学療法士が患側手の操作をしています。
  できる限り鏡像に合わせて、同じ動きを起こさせています。
  ただし、痛めないように、無理のない範囲で止めています。

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Q.4 どんな運動をするの?

A.決まりはありません。

  目で確認しやすいように、あまり速くは動かしません。

  • 手の開閉(グー / パー)の繰り返し : 写真N
  • 指折り(親指から順に曲げていき、小指から順に伸ばします。) : 写真O
  • 親指と他の指とのつまみ動作 : 写真M
  • 親指や人差し指を1本ずつ曲げ伸ばし : 写真J,K
  • 手を仰向けにしたりうつ向きにしたり
    などなど

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Q.5 本当に効くの?

A.良くなった人もいますし、変わらない人も少なくありません。少なくとも全ての人に平等に効果があるというわけではないようです。

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Q.6 どんな人に効くの?

A.はっきりとはわかっていません。
  現在、薬のような適応や禁忌が決められているわけではありません。
  脳卒中後、切断後、痛みのある状態などに適用されています。
  鏡像をじっと見つめる集中力が必要です。
  いわゆる回復期(病気自体が安定し、リハビリテーションを重点的に行う時期)を
  大きく過ぎていない方がいいかもしれません。時間が経ちすぎると、硬さや
  痛みなど色々な症状が重なり、治りにくい可能性があります。

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Q.7 副作用はあるの?


A.これもはっきりしていません。
  経験的には、直接的で大きな副作用は確認できていません。
  ただし、これまでに気分不良を訴えられた方はいます。
  集中力も必要ですので、疲労を訴える方は多いですが、許容範囲のようです。
  鏡の裏での乱暴な操作や無理な姿勢の継続は、痛みを引き起こす場合があります。

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参考文献


  1. V.S. ラマチャンドラン,サンドラ・ブレイクスリー著,山下篤子訳:脳のなかの幽霊.角川書店,東京,1999,pp 73-98.
  2. サンドラ・ブレイクスリー他著,小松淳子訳:脳の中の身体地図,インターシフト,東京,2009.
  3. V.S. ラマチャンドラン他:鏡のマジックは疾患治療にも,日経サイエンス38(1):78-80, 2008.
  4. V.S. ラマチャンドラン他:幻に触れる,日経サイエンス38(9):72-74, 2008.
  5. 熊澤孝朗:痛みを知る,東方出版,大阪,2007. 143-147.
  6. 手塚康貴・松尾篤:脳卒中片麻痺患者に対するミラーセラピー.理学療法22:871-879, 2005.
  7. 手塚康貴・他:脳卒中後上肢運動麻痺に対する鏡像を利用した治療の効果 ーランダム化クロスオーバー研究―,理学療法学33:62-68,2006.
  8. Ramachandran VS et al.: Touching the phantom limb. Nature 377:489-490,1995.
  9. Ramachandran VS, Altschuler EL et al.: Can mirrors alleviate visual hemineglect ?. Medical Hypotheses 52: 303-305, 1999.
  10. Altschuler EL, Wisdom SB et al.: Rehabilitation of hemiparesis after stroke with a mirror. Lancet 353:2035-2036,1999.
  11. Sathian K, Greenspan AI et al.: Doing it with Mirrors: A case study of a novel approach to neurorehabilitation. Neurorehabil Neural Repair 14: 73-76, 2000.
  12. Gunes Y., Rund S. et al.: Mirror Therapy Improves Hand Function in Subacute Stroke: A Randomized Controlled Trial. Arch Phys Rehabil 89: 393-398, 2008.
  13. G. Lorimer M. Alberto G. et al.: Is mirror therapy all it is cracked up to be? Current evidence and future directions. Pain 138: 7-10, 2008.

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